「三年たったら、どうしよう? 小樽を出ようか?」
二〇一五年の夏に父が亡くなって二ヵ月間、三回忌を迎えた後のことを考えていた。数年間様々なことがあり、人の悪意や閉塞感を感じることも少なくなく、いっそのこと全部投げ捨てて本州に行くのもありだと思っていた。
小樽というまちに興味はなかった。人付き合いも基本的に避けていた。三十年近く住んでいたものの、小樽の良いものに触れる機会もそんなになかった。何がいいのかも、何をしているのかもわからない、そんな印象だった。
「あと、三年しか住まないのなら…」
そう思ってインターネットで小樽を調べてみた。小樽の各施設や会社などのサイト、個人のブログやSNS(会員制交流サイト)…さまざまなところに小樽の情報はあった。情報の種類も、市や個人の取り組み、イベント、名所、グルメ、歴史、月刊誌など多岐にわたる。散らばった情報は知らないことだらけなので、どれも新鮮に映った。探求心が疼くのを感じた。小樽全体がおもちゃ箱のように思えた。いま自分が探して得た情報は、みんなが当たり前に知っていることかもしれないけれど、知らない人がいるかもしれない。ちょっとのきっかけで、情報に出会えていないのなら、それはもったいない気がする。いや、もったいない。小樽にはこんなに好きになれる要素があって、頑張っている人がいるのだから。
「情報に出会うきっかけを増やすには?」
小樽が好きで詳しい人は情報の入手方法を知っている。それ以外の人のきっかけを作るために、自分が目を付けたのはTwitter(ツイッター)だった。「Twitter」とはツイートと呼ばれる半角280文字以内のテキストや画像、動画、URL(インターネット上の情報のアドレス)を投稿できるSNSだ。他のSNSに比べて、速報性や拡散性が強い。利用者の年齢層も幅広い。おまけに約一時間おきに自動でツイートしてくれるサービスがあるので、テレビCMのように情報を繰り返し流すこともできる。利用者の利用時間に左右されることなく、たくさんの人に見てもらえる確率が上がるということだ。
Twitterをメインに小樽の情報を流しているアカウントはなかったので、ここで小樽の情報をたくさん流して拡散しよう。詳しく知りたい人には情報源をきちんと示そう。きっかけを作ろう。興味がない人にも小樽に興味をもってもらおう。小樽を好きな人が増えれば、小樽で楽しいことが増えて賑やかになるだろう。小樽の取り組みに参加する人だって増えるだろう。お気に入りの場所やお店だって増えるはず。経済も潤い、便利なことが知れて、困ったときには市が助けてくれることが増える。何をするにも、小樽が元気でなければ始まらない。活動している人には協力者や応援者が増えて、活動のひと踏ん張りの力になるはずだ。頑張りを見て、自分も活動しようという人も出てくるかもしれない。また、小樽を離れた人でもネットなら小樽の「いま」をすぐに見ることができる。
自分は小樽のことに詳しくはない。でもその都度調べれば良いし、知っている人が教えてくれるだろう。自分一人がすべてを知っている必要はない。小樽を好きな人、詳しい人はTwitter内外にたくさんいるのだ。それに、知らないことにより、広がりが出ることだってあるのだから。現状が自分にとって面白くないなら、自分で面白くしてしまえばいい。楽しいことは一個でも多いほうがいい。あれ、これって結構楽しくって、良いこといっぱいで、いーんじゃない? 私は結構、いや、かなり楽観的で単純だった。
「おもしろそう! やろう!」
こうだと決めると、自分はすぐに行動に移してしまう。動けるなら動こう! 仕事の昼休みにアカウント名を、小樽市の鳥「アオバト」と、雑誌の読者コーナーにありそうな「情報局」を組み合わせて「小樽アオバト情報局」と決め、運用に関して二つのことを決めた。
①内容は一つのツイートだけで、わかりやすく簡潔に。興味を持ってもらえるように。自分は非常に面倒くさがり屋なので、一つの話題は一つのツイートの中でわかるようにしたかった。自分が発信しているのはTwitterを利用している人へ向けてなのだ。それを忘れないよう心掛ける。例えばイベントの紹介なら、イベント名、場所、日時、内容、ポスターなどの画像があれば、画像をつけてツイートする。情報元へのリンクはもちろん記載するが、ツイート内でイベントの最低限のことがわからないのは避けたかった。
②一人でやる。怒られたらやめる。無理せずマイペースで。三年後はどうなっているかもわからないし、トラブルを避ける為にも協力者や後ろ盾なく一人でやろうと決めた。金銭の発生もない。小樽市や団体等に「勝手なことはするな」と怒られたら、すぐにやめる。運がいいのか、関係者の心が広いのか、未だにそういった話はない。ありがたいことだと思う。
「小樽アオバト情報局です。小樽の情報を集めて、Twitterで情報を流しています」
我ながらインスタントに、勢いよく始めたこのアカウントは五年以上続いている。この間、北海道胆振東部地震や新型コロナウイルス禍などトラブルはあるけれど、その時出来ることをしてきた。小樽に向けた「ちょっと」と「きっかけ」で、どんなことでも「楽しい」を見つけられやすくなったし、アオバト情報局の活動を通して出会った人たちのおかげで続いている。いつまでやるかはわからない。でもやめるときまで、ツイートは流し続けたい。ツイートとはインターネットの海に瓶詰の手紙を流すようなものだと思う。
誰に届くのか、受け取った人がどう反応するのかわからない。でも、こめる願いはいつも「見た人が小樽に興味を持ってくれますように」
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